おそらく、本作に興味を持っている方はご存知かと思いますが、最初に『衛宮さんちの今日のごはん』について、簡単に説明しておきましょう。
『衛宮さんちの今日のごはん』は人気シリーズである『Fate』系列作品のひとつで、原点である『Fate/stay night』のスピンオフ作品です。『Fate/stay night』では、魔術師とその使い魔であるサーヴァントたちが命を懸けて戦う“聖杯戦争”が描かれますが、『衛宮さんちの今日のごはん』時空では、そんな血で血を洗う戦いからはオサラバ! 『Fate/stay night』のキャラクターたちがのんびりと日々を過ごし、ご飯を食べるようすを楽しむことができます。 そんな幸せな日々を過ごす魔術師やサーヴァントたちの姿を見つつ、ついでに料理のミニゲームができる、というのが本作なのです。
遊んだ感想を先に言ってしまえば、本作は料理ゲームというよりも、アドベンチャーゲームに料理ミニゲームが付いたもの、というイメージのほうが近いです。
メインはあくまでも『衛宮さんちの今日のごはん』というコンテンツのシナリオであって、料理フェイズが本作の肝ではないと感じました。ほんわかとした作品全体の雰囲気と、うまく料理ができて喜ぶセイバー、凛、桜たちの顔を見てニコニコする。そんな作品になっています。
原作のやわらかさの再現度が高い シナリオは本作のオリジナルストーリーとなっているものの、作る料理は原作に登場したものが多い印象を受けました。もともとテーマとなる料理と、それに付随するキャラクターたちののほほんとしたやり取りを楽しむ作品ですが、この空気感はうまく再現できていると感じます。
原作に登場した料理であっても、“ランサーにも好評だった”といった一文や、“柿を使ったメニューを作ったさすらいの料理人”というフレーズなど、原作を知っているとニヤリとできたり、時系列が把握できる表現が出てきたりといったファンサービスがあるのはうれしいですね。
原作と異なる点としては、本作は“セイバー(や凛、桜)が士郎の料理を手伝う”というのがコンセプトであるため、セイバーが料理に興味を持ち手伝ってみる、という流れになっていること。
凛や桜はもともと料理が得意なこともあって普通のお手伝いなのですが、腹ペコキャラクターとして名の知れたセイバーが料理をするという光景は少し新鮮でした。包丁の扱いについて心配する士郎に対して、「刃物の扱いは慣れています」とドヤ顔で返すあたりが可愛かったです。
欲をいえば、登場キャラクターがメインどころしかおらず、もっとランサーやライダー、キャスターなどとの絡みを見たかったですね。また、衛宮邸以外も描かれないため、それこそランサーのバイト先の魚屋に行って買い物をするセイバーの姿が見たかった……!
基本的に士郎と料理を手伝う相手のやり取りのみで進んでいくため、もっと大勢で食卓を囲んだりするシーンが欲しかったです。
ゲームに不慣れな人でもプレイできる安心ミニゲーム 実際の料理のシーンでは、セイバーや凛、桜(ルートによって変更)となって料理の手伝いを行います。あくまでも“手伝い”なので、料理をイチから最後まで作るわけではありません。下処理や簡単な作業を題材にしたミニゲームとして行っていきます。
Joy-Conのジャイロセンサーを生かした操作にも対応しており、こちらでは手を動かすことで野菜を切ったり、炒めたりするため、実際の料理に近い動きでゲームを楽しむことも可能です。
ミニゲームは全部で8種類あるのですが、使うボタンは多くても3つ程度。ゲームに慣れていない人でも、操作自体は難しく感じることはないでしょう。ゲーム的な難易度としては、セイバーが簡単、桜が普通、凛が難しい、というようにルートごとに分けられていると感じました。
ミニゲームの出来具合によってスコアが付けられ、目標値となるスコアを達成できたかどうかで、最終的な料理の出来栄えが決まります。料理の出来栄えしだいで、新しいルートやスチルが解放されるといった、ゲーム的な要素のアンロックにも関わります。
何より、あまり上手くできなかった場合、その後の実食シーンで士郎に汗をかきながら慰められるのが地味に心にきますね……(笑)。
とはいうものの、ストーリー後半になると、ただミニゲームをうまくこなしても、最高評価に到達できない場面が出てきます。この問題をクリアするには、一定の“けいけん値”を稼ぐことで習得できるスキルが必要。つまり経験値を稼ぐために、繰り返し料理(の手伝い)をする必要があるのです。
ストーリーで稼いでもいいのですが、それよりも効率がいいのが“毎日ごはん”というコンテンツ。簡単にいうとミニゲームのスコアアタック要素なのですが、ここで提示された条件をクリアすることで、効率よく“けいけん値”を稼ぐことができます。もちろん、多く“けいけん値”をもらえるものほどミニゲームの難度も上がっており、操作が単純だからといってなめてかかると、痛い目を見ます。
実際、包丁で野菜を切るミニゲームは、ものすごいスピードでマークが流れてきて、ミスを連発しました(苦笑)。ちなみに、ミニゲームには練習モードもあるので、苦手な人も安心!
“けいけん値”を一定値稼ぐと、料理の“うでまえ”が向上。ミニゲーム中に条件を満たすと発生し、スコア獲得率が向上する“のりのりタイム”をブーストできるような効果を得られるように! これを生かして、ミニゲームの難しい条件をクリアしていくことが基本的な流れになります。
繰り返しプレイしていて気になったのは、最初から最後まで料理を作らせてほしい、ということ。いつまで経っても皿洗いばかりさせられているアルバイトのような気分になってきます。また、Joy-Conの操作に関しては、切る、炒める、かき混ぜるといった動作には馴染んでいるものの、他のミニゲームには動きに違和感を感じるものも。これはゲームとしては仕方のないところかもしれませんが、ミニゲームの難度が上がると、実際の料理の手つきと乖離していく点も気になりました。
収集要素もあるが、何よりも料理のレシピ集がスゴイ! ストーリー上の料理で良いスコアを取ったり、毎日ごはんで特定のメニューをクリアしたりすることで、スチルやキャラクターの衣装などを解放できます。こういった解放したコンテンツに関しては、“想い出”として保存され、いつでも閲覧可能に。収集要素としてもそれなりの数が用意されているので、やり込み派の人にはうれしい要素ですね。
キャラクターモデルは、衣装を変えたり、集めた特別なモーションを取らせて眺めることもできます。衣装はストーリーにも反映されるため、見慣れたシーンであっても少し新鮮に映るかもしれません。
個人的に一番ワクワクした要素としては、作中で作ることができる料理のレシピ。
ストーリーでお手伝いする際にも簡単な工程が士郎から説明されるのですが(それでもけっこう詳しく書いてあってビックリしますが……)、想い出に収録されているレシピでは、材料の量から始まり実際の調理工程までがビッシリと記されています。一言メモまで添えられていて、まるで普通の料理本を見ているかのよう。
最終的に私がたどり着いた結論は、「このゲームは、セイバーたちのお手伝い風景を体験してほっこりしつつ、衛宮邸のレシピを学べる料理本なのでは……?」ということでした(笑)。
何よりも、完成した料理を食べるセイバーたちの表情がとても良い! 見ているだけでこちらのお腹も空いてしまうのは当然、この料理を作ってみたくなってくるほど……。この点は料理をコンセプトとした作品として、かなり成功しているのではないでしょうか!?
ということで、唐突ですが、実際に一品作ってみました。チョイスしたのは“鮭ときのこのバターホイル焼き”。原作1巻・アニメ第2話でランサーにご馳走していたものと同じ料理ですね。
レシピではきのこにはしめじを使っていましたが、我が家ではしめじが苦手な人がいるため、まいたけで代用してあります。ほんのりとしたバター風味がおいしい料理でした。作中でも言われているように、醤油を少し垂らすと、一味違う風味を楽しめて良かったです。少ない手間で作れるのも便利!
本作は、ゲームとしては会話シーンとミニゲームの繰り返しで、全体的に淡々とした印象ですが、そこはある意味原作準拠とも言えるところ。とはいえ、やはり料理ゲームとして見るにはもう少し料理を作っている感覚が欲しかったですし、『衛宮さんちの今日のごはん』のファンゲームとしては、もっと複数のキャラクターとの絡みが見たかったところです。
しかし料理をおいしそうに食べる描写だけで「この料理作ってみようかな」と思わせる部分の破壊力はすさまじく、レシピの細かさについても申し分なし……! 本作を手に取った人は、ぜひ実際に作ってみて欲しいですね。美味しいから!
【商品情報】
- ゲームタイトル:毎日♪ 衛宮さんちの今日のごはん
- ジャンル : 台所アドベンチャー
- プラットフォーム:Nintendo Switch(ダウンロード専用ソフト)
- 発売日:2021年4月28日(水)
- 価格:5280円[税込]
- プレイ人数:1人
- CERO:A(全年齢対象)